「あなたは最近、音楽を聴いてますか?」
音楽業界の衰退が言われ始めて、もう何年になるだろう。
私は今、30代半ば。
学生時代、音楽が生活の一部となっていた時代を過ごした世代である。
そんな私も、最近は音楽を聴く機会がすっかり減ってしまった。
スマートフォン。
本当に便利な世の中。
イヤホンからはコードが消え、どこにいても自由に映像を楽しめる。
私は音楽が好きだ。
でも、映像の没入感、視覚から来る刺激はかなりのインパクトがある。
音楽ですら、プロモーションビデオと合わせて楽しむ時代に入ったのかもしれない。
いつのまにか、街から新しい音楽が聞こえて来なくなった。
手元では、より自由に、よりお金をかけずに聴けるようになったが、音楽業界は追い込まれた。
音楽に規制をかけて、お金を取る。
他にも道はあったかも知れないが、手っ取り早い方法を取ってしまった。
街を歩き、お店を巡るだけで気になる音楽に出会う。
そんな体験を、もう何年もしていない。
確かに、手元ではいくらでも自由に聴ける。
自由すぎるほどに。
どんなに無名でも、CDをネットで買える。
無限に広がるネットの世界。
無限に広がったがゆえに、音楽と偶然の出会いが生まれづらくなった。
音楽は、向こうからやって来なくなったのだ。
能動的に、こちらから出会いに行かなければ出会えない。
無限に広がる世界には、音楽と同じように、刺激的な映像作品があちらこちらに転がっている。
音楽は埋もれてしまった。
今後、この無限に広がる世界は、より速く、遠くへ行くことになるだろう。
映像を超えた何かに到達するのかもしれない。
音楽は、既に時代の波に埋もれてしまった。
映像には勝てない。
本当に、そうだろうか?
今、音楽を聴くとすれば、あなたは何を聴くのか。
昔流行った曲、昔好きだった曲、昔好きだったアーティストの新曲。
大人が聴く音楽は、こんなところが大半だろうと私は思う。
しかし、音楽は常に生み出され、積み重なる。
一生かけても出会えない数の音楽。
もう誰も新曲を出さなくても聴ききれないぐらいの量はあるのかもしれない。
「だから、もういいや。好きなアーティスト、好きだった曲を聴いておこう。」
でも、よく思い出して欲しい。
あなたが、その好きなアーティストに、好きな曲に出会った頃の喜びを。
音楽の素晴らしさは、そこにある。
新しい音楽との出会い。
それを絶つこと。
それはすなわち、音楽の感動を捨てること。
今、音楽は無限にある。
無限にあるからこそ、出会えた感動がそこにはある。
音楽を聴かなくなったのは、年齢のせいだけではない。
昔の自分に音楽が響いたのは、環境のせいだけではない。
初めて出会った感動が、そこにあった。
それだけである。
今は、自分が動かなければ新しい音楽には出会えない。
確かに、動画は面白い。
SNSは楽しい。
でも、もう一度、新しい音楽に触れようとしてみてほしい。
好きなアーティストが評価している若手アーティスト。
好きだった曲をカバーしているミュージシャンの曲。
そうやって深掘りすると、自分の琴線に触れる音楽に出会いやすいはずだから。
きっと、あなたも出会えるはず。
あの時の感動を、また味わえるはず。
今だからこそ、聴ける音楽もあるはず。
音楽は、衰退なんてしていない。
新しくて素晴らしいアーティストも、山ほどいる。
探せばすぐに出会える。
けど、自分から見に行かないと見えないだけ。
音楽を聴かなくなった大人たちへ。
まずは、指先から。
指先を動かして、音楽に出会いに行こう。
自分の足で、音楽に出会いに行こう。